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香辛料について


第六回 和食の薬味 Ⅰ

これまで香辛料をテーマとして胡椒とショウガについて詳しくお伝えしてきました。香辛料は海外からもたらされましたが、日本では昔、生薬として漢方薬の材料として使われたほかは、一般的にはあまり使われませんでした。それは江戸時代ごろの日本人は肉食ではなかったことと、発酵調味料を使用していたため香辛料の需要が少なかったことにあります。
今回は香辛料の枠を広げ、江戸時代頃から登場した日本独特の薬味についてお知らせします。
刺身に付くおろしわさび、冷奴やそばについてくる刻みネギ、天ぷらに欠かせない大根おろしなど、和食の食卓に薬味はつきものです。薬味がなくて何か物足りないと感じた経験はないでしょうか?

薬味が使われ始めたのは江戸時代頃から

江戸時代の初めにはうどんが日本人の好物となったようで、そのうどんに薬味が使われるようになりました。ただし今のように長ネギや七味唐辛子ではなく、当時の薬味は胡椒や梅干し、大根、味噌、醤油と記録されています。醤油は江戸時代前期に現在の千葉県の野田や銚子で作られ江戸へともたらされ、大都市江戸から全国へ広まりました。現在では味噌や醤油は調味料に分類されていますが、初めは薬味だったわけです。では当時のうどんの調味料はなんであったかというと、鰹の煮汁いわゆる「だし」でした。また当時そばの薬味にはすでにわさびが使用され、江戸時代から出てきた寿司にも風味と鮮度を保つためにわさびが使われていました。

薬味の役割・料理との関係

薬味は加薬とも言い、日本料理に用いる香味料です。出来上がった料理に添えて香りや風味を増し、彩を加え、食欲増進に役立ちます。またその香りと成分が肉や魚などの臭みを抑制し、味をまろやかにします。「薬味」という表現からも「薬膳」と同様に、体を温める、消化を促すなどの健康増進の薬効も大事な要素になります。殺菌作用のある薬味は食材の腐敗を防ぎ食中毒を予防します。また薬味と食材の相乗効果で栄養が吸収されやすくなります。
前述したように、焼き魚に大根おろしなど、料理と薬味の組み合わせというのがあります。それは食材と薬味の持つ薬効を理解した先人の知恵から、最適な組み合わせが代々伝えられてきたからです。
また薬味の調理はいずれも食事の直前に準備する必要があります。おろしたり擦ったり、刻んだりした薬味は時間が経つにつれ香りが薄れ、有効成分が揮発してしまうためです。例えば大根おろしは、おろした後15分ぐらいで食べないと有効成分の効果がなくなってしまいます。

薬味の種類

薬味の食材には植物性の野菜と果物の生鮮品と乾燥品、動物性のものは鰹節、桜エビなど乾燥水産品などがあります。また海藻のノリも薬味の一つです。
1.野菜類:主に葉や茎の部分を使い、大抵は生のまま水洗いしたものをそのまま刻んで使います。野菜類の薬味は緑色の鮮やかなものが多く彩りを添えるにも一役買っています。主なものは、長ネギ、玉シソ(青ジソ)、三つ葉、みょうが、ニラなど。
2.柑橘類:柑橘類の果実と果汁は爽やかな芳香が特徴で、料理に風味をプラスしてくれます。主なものは柚子、レモン、ライム、かぼす、スダチなど。
3.根菜類:生のまますりおろしたり、刻んだりして使います。しょうが、わさび、大根、玉ねぎ、ニンニク、ホースラディッシュなど。しょうがやわさび、ニンニクなどは乾燥させて香辛料としても使われます。
4.種子類:乾燥させた状態で使いますが、脂質を多く含むため多く使うとしつこくなります。ゴマ、ピーナッツ、クルミ、松の実など。
5.海藻類:乾燥させて切ったり揉んだりして使います。海苔、青海苔など。
6.動物性のもの:削りぶし、桜エビ、チリメンジャコなど。

薬味の効能:スイスで手に入る食材を使った薬味

長葱(ネギ)
長ネギには、食欲増進、血行を良くし疲労物質である乳酸を分解、新陳代謝を活発にする作用があります。強力な殺菌作用もあり、風邪の予防・治療に役だち、また咳を鎮めます。解毒作用、発汗作用、抵抗力アップ、不眠改善の効果などもあります。
種類は関東で多く食される白ネギと関西で多く使われる青ネギがあります。栄養的には、太陽の光をたくさん浴びて育った青ネギの方が白ネギより栄養成分が多く含まれています。特にビタミン、ミネラルについての差は大きく、ビタミンCは約4倍、ビタミンAは100倍以上になります。
しかし、白ネギに含まれているピリッとした刺激臭は硫化アリルという物質で、硫化アリルの一つアリシンは食欲を増進したり、消化器系の働きを高めたり、血行を良くするという効果があります。硫化アリルは、玉ねぎやニンニクなどにも同様に含まれています。

次回は、スイスでも手に入る和食に合う薬味をさらにいくつか取り上げたいと思います。